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2011年4月18日 (月曜日)

人質の朗読会 小川 洋子

人質の朗読会
小川 洋子

あらすじだけを読むと実に奇妙なお話(舞台設定)である。

遠い異国の地で、旅行中にテロリスト集団に誘拐されてしまった8人の日本人の旅行者たち。本の冒頭で、彼らは救出劇の失敗により、全員爆死してしまうことが明かされているのだが、彼らが人質となっている間に、その退屈を紛らわせるために、互いの過去の思い出を話し合っていたことが後に知れる(誘拐犯の活動を傍受するための異国の政府の諜報活動から)。
その奇妙な朗読会の様子が、この作品の中に8編(とプラス1編)、収められている。

いずれの話にも関連性はない。ただ、過去に偶然知り合った奇妙な人(その大半は死んでいる)との、奇妙な出来事が、いずれも「朗読」という形で、ここでは提示される。
奇妙な思い出話が、淡々と語られるという点以外に、それぞれの話には共通点はない。しかし、ある種の温かみやおかしさが、孤独感や悲しみに包まれる形で(あるいは逆に、包み返される形で)、読む人の心を打つ。

読後の深く重い読了感の中で、2つだけ疑問が残る。
1つは、全ての話は一旦、文字として書き出され、それを朗読するという形を取っているのは何故だろう?という点。全てのお話が、一度書き言葉とされ、それを朗読したという設定のため、それぞれの話を語る人たちの肉声のようなものは、一切そこには含まれていない。実際には老若男女、それぞれの言葉あったはずであるし、それを書き分ける技量は小川氏は持ち合わせていたはずだが、そこを全て排した形としたのは何故だろうか?
あくまで想像だが、まず初めに「人質の朗読会」という言葉が作者に降りてきて、それにそった形で小説を書き始めたために、こうした奇妙な設定になったのではないか、ということ(あくまで想像)。

そしてもう1つの疑問点。彼ら人質は全員死んでしまう必要が本当にあったのだろうか?という点。
こちらについては、そうした疑問も含めての作品なのであろうとしか、今は答えらしきものは思いつかない。

ただ、一つ一つの話が含む不思議な重さと暖かさが、読後、かなりの時間を取ってからも、思い出したように読み手を揺さぶり続けるものが、この作品にはあるように思える。
今少し、評価されても良い作品だと思う。


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